【制作レポート】「ことばの渡し」詩のワークショップ/ラップのワークショップ篇
この日の隅田川怒涛「ことばの渡し」では、会場でのライブパフォーマンスを開始する前に参加者を一般公募した詩とラップのオンラインワークショップが行われた。
一般的に学校教育以外の場所で「詩を書いたことがある」という人はどれくらいいるのだろうか。ヒップホップ・ラップミュージックは日常様々な場面で耳に入るが、自分でラップをする人はそのほんの一部ではないか。
講師陣と私たちはまずその視点に立ち、ことばの渡しのワークショップが「初めの一歩」となるためには、当日の限られた短時間でどういったアプローチでどのようなゴールを迎えるのがベストなのかを考えた。
途中「ことばの渡し」の実施会場は隅田川桜橋からムラサキパークへ、そして参加者には会場ではなくオンラインで、Zoomを用い参加をしてもらう形態に変更となった。
この変更により直接参加者の声を講師陣が拾うことが困難にはなったが、反面オンラインの特性を活かし、チャットでのテキスト入力でコミュニケーションを取る、言葉を拾っていくという工夫もできることになった。
まず詩のワークショップ。
中原中也賞受賞詩人であり、詩集等書籍の装丁デザインの仕事も手がけマルチに活躍するカニエ・ナハと、代表作「明日戦争が始まる」では、SNSカルチャーの中にも詩の持つ力を広く知らせた詩人 宮尾節子が講師を務めた。
カニエ・ナハのワークショップは、あいうえお作文のように、自身の名前の頭文字を文頭におき自己紹介、名刺がわりの作品をつくる「名前詩」。
名前というのはすでにもうそれだけで他者から与えられた一つの作品、詩であるという視点から
私たち全員に存在する固有のそれを用い、なおかつ自身を他者に短く紹介する作品を制作することになった。
カニエ・ナハは自身の名前を用い「か」「に」「え」「な」「は」から始まる5行の詩とその展開/肉付けの方法を例と示しながら進めていった。ZoomやYouTubeのチャットには続々と参加者・視聴者の作品が投稿され、駆け足ながら数名の作品がカニエにより紹介された。出来上がった作品を自身でSNSに発表する参加者も多く見られた。コンパクトに完結する作品形体自体がSNSでのポストのしやすさとマッチしていたのかもしれない。ワークショップ終了後も、別のパターンでもう数作制作し、自主的に発表している参加者も見られた。
宮尾節子のワークショップでは、参加者が一行ずつ詩を書いていき(チャットにテキストで入力)それを繋げて1編の詩に仕上げるという「連詩」形式での作品制作をおこなった。そして出来上がった作品は、ことばの渡しに続いて行われたプログラム「エレクトロニコス・ファンタスティコス!〜家電集轟篇〜」内にて、エレクトロニコス・ファンタスティコス!の演奏とのコラボレーションで宮尾によりリーディングでパフォーマンスが披露された。
「不死身プリン」とタイトルを付けられたその作品を紹介する。
「不死身プリン」
ことばだけでいいよ、荷物になるから
まかしとけ
プリン、がふっとうする
滑り台を滑った
その先には糖分のプールがある
それはカラメルだ
いまとここが、きみにわたる
川は今日も止まらない
川はどんなものでも受け入れ、包み込んでくれる。
私の人生もそうありたい。
無限の世界だ
風が吹いた
橋から見える川の水しぶきに目を奪われて
真っ青なパンは
それは胎動している
堕ちて、塗れて、流れて、まみれて
もしも不死身だったなら
わたしは疑似体験する
幼子のような好奇心で立ち向かうのだ
貴方の傍で鼓動していく
立ち止まるな、進め
終わりのない言葉の風に吹かれて
どうぞご無事で。ユリカモメ。もう、お休みだ。
ワークショップ直後にはSNSで活発にその感想がポストされていたが、多くの参加者が、たった1行とはいえ自分が自分の言葉で参加したものが一つの作品にまとまる達成感、宮尾のパフォーマンスをもって最終的な「完成」をするという流れを皆で共有したという一体感を感じたようだった。
そしてラップのワークショップ。
こちらは講師にラッパーの晋平太を迎えた。ライブやMCバトル等ヒップホップの現場だけではなく、近年はその創作の精神や手法を伝え教えるワークショップ活動にも積極的なアーティストである。
自己紹介を8小節のラップで展開をするという、初めてラップに触れる参加者にとってはややハードルが高く感じられてしまうかもしれない試みであったが、始まってみると多くの参加者がしっかりと8小節を作り上げ、ラストには自身の声で活発に表現してくれた。
ワークショップ冒頭にはヒップホップ・ラップの成り立ちの歴史やその精神性の解説、ラップをする上で身に付くスキルを、スライドの写真をどのように言葉で説明できるか、参加者にも問いかけながら「自分のことを説明できるのは自分しかいない」とこのワークの意義をしっかりと提示する。
①名前 ②出身(レペゼン) ③特技・好きな事 ④目標 をまず1小節ずつ作り、段階ごとに数人の参加者に発表してもらう。
そしてそれぞれの小節に対しさらに説明する1小節を足す ①①’ ②②’ ③③’ ④④’ という構成で
8小節に膨らませていった。
前述したとおり多くの参加者が、作成したラップを肉声で披露することに積極的であり、とくに今まで全くラップをする経験のなかった方がチャレンジをしてみるといった光景が多く見られたのが印象的だった。
ワークショップ全体を通し、限られた時間のなかでやや駆け足な展開とはなったが、駆け足になった分「もっと試してみたい・作ってみたい」という気持ちが生まれた参加者により、終了したあとにもSNSでの広がりをみせたのが企画側としては意図していない嬉しい驚きであった。
三木悠莉(KOTOBA Slam Japan)
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