コンセプト

酒を造ることができるほど清く澄んでいたことが、名前の由来の一説ともいわれている隅田川は、長きにわたり川面に東京そのものを映し出してきました。
その隅田川をひとつの舞台と見立てた、音楽とアートのフェスティバル。日本を代表するアーティストたちが、音楽を軸にしたライブ、パフォーマンス、インスタレーションなどを「春」と「夏」の2回にわたって展開します。
約200年前の江戸の華やぎを想い、この地の永い歴史に尊敬の念を込め、芸術表現活動を通じて、人々が怒涛のように混ざり合っていく姿を描くプロジェクトです。
ステートメント
『隅田川怒涛』夏会期開催に寄せて
『隅田川怒涛』は、5月22—23日の春会期を経て、間もなく8月13日—9月5日までの夏会期を迎えます。
およそ3年前に構想した、隅田川全域を舞台とした音楽とアートの芸術祭は、このコロナ禍で大きく形を変えざるを得ませんでした。本来であれば、主に屋内外の公共空間を大胆に使った14のプログラムを展開する予定でしたが、その多くは実施されることなく、変更に変更を重ねて今回の夏会期に至ります。表現の仕方も見当たらないほどの悔しさ。機会を未来に譲ると言えば美しいかもしれませんが、折り合いのつかない感情が寄せては返す波の如く去来します。
春会期に実施を予定していた「ほくさい音楽博」は、地域の子供たちが普段習うことの出来ない響きの美しい音楽を知り、体験し、練習し、発表会を行うプログラム。弊NPOでも2015年から毎年実施してきた人気演目です。『隅田川怒涛』で発表会を行うため、当初2019年の冬に参加の申し込みをしてくれた子どもたちは、49名いました。それが度重なる延期を経て、現在は27名まで減ってしまいました。先週末7月24、25日からようやく練習が再開。久しぶりにみんなで集まって練習することができた喜びの裏に、参加を断念せざるを得なかった22名の子供たちの顔が浮かんできます。
感染者の急増を伝えるニュース、分断を促すネット上での数多の言説、多くの情報がネガティブな方向に流れていってしまっているこの2021年の夏に『隅田川怒涛』は何ができるのでしょうかーーー。正直、この濁流の中で明確な答えは出せずにいます。気楽な調子の良いことなんてとても言えない。ですが、このような状況にあっても出来ることは、今ある身近な関わりを絶やさないこと。対話を止めないこと。会うことを諦めないこと。表現をすること。表現する人を全力で支え続けること。そしてその先に、さまざまな理由で今を諦めざるを得なかった人たちとまた再び出会える機会が訪れることを、願ってやみません。
4度目となる緊急事態宣言下、東京オリンピック・パラリンピックの開催期間の最中、『隅田川怒涛』夏会期を開催します。今、出来うることの全てを込めた渾身のプログラムです。現場や画面を通じてお会いできるのを、心から心から楽しみにしています。
※「ほくさい音楽博」は、8月14、22日に無観客で発表会を実施します。その模様は「天空の黎明」にて放送予定です。
2021年7月29日
NPO法人トッピングイースト 理事長 清宮陵一
清宮陵一
©Mao Yamamoto
清宮陵一
NPO法人トッピングイースト 理事長/合同会社ヴァイナルソユーズ 代表
1974年東東京生まれ。2001年に音楽レーベル「vinylsoyuz」を始め、音楽家による即興対決プロジェクト『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS』を主宰し、2006年のドキュメンタリー映像作品製作以降、国立科学博物館、後楽園ホール、スタインウェイ工場(NewYork)にて公演を実施。今後も日本人音楽家が海外に挑むプロジェクトとして五大陸制覇を計画中。
坂本龍一氏のレーベル「commmons」に参画後、音楽プロダクション「合同会社ヴァイナルソユーズ」を立ち上げ、現在はさまざまな音楽家らと協業する傍ら、特別なヴェニューや公共空間でのパフォーマンスを多数プロデュース。2014年には音楽がまちなかで出来ることを拡張すべく「NPO法人トッピングイースト」を設立し、地元・東東京に根差したプログラムを展開。2021年にはTokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13『隅田川怒涛』を実施予定。
メインビジュアル
隅田川怒涛
隅田川怒涛
©一般財団法人 北斎館 / 右:©小山泰介
今回、隅田川そのものが経てきたまさに「怒涛」の歴史に敬意を表し、ビジュアルには、葛飾北斎が最晩年に、小布施を訪れ描いたという、上町祭屋台の天井絵≪怒涛図≫を使用します。これは、本プログラムが、演者と観客、地域住民と来訪者を、分け隔てることなく鮮やかなまま混ぜ合わせ、そのぶつかりで生じる飛沫が川の流れになるようなイメージを重ねています。この屋台の天井図は「男浪」と「女浪」の二面で構成されており、『隅田川怒涛』では春会期には「男浪」を、夏会期には「女浪」をキービジュアルにしていきます。
葛飾北斎が晩年に描いたとされる≪怒涛図≫をキービジュアルとし、写真家・小山泰介がその≪怒涛図≫からインスパイアされ撮り下ろした写真作品。この2つを対比するように並列に配置することで、過去と現在、伝統と現代の融合を想起させるビジュアルランゲージとしてのデザインを行っている。
ーartless川上シュン
移り変わり続ける川面の渦は、光と影がなければ見えません。水面に反射する街の姿から有機的な渦たちにフォーカスし、怒涛という激しい運動に宿る、パターンとカオスが混在した流動的な現象そのものをビジュアライズしました。
ー小山泰介
artless 川上シュン
artless 川上シュン
ブランディング・エージェンシー artless Inc. 代表。独学でデザインとアートを学び、現在、東京と京都を拠点に、アート/デザイン/ビジネス、そして、グローバル/ローカル という 5 つの視点を軸に、グラフィックから建築空間まで、すべてのデザイン領域における包括的なアートディレクションによるブランディングやコンサルティングを行っている。
受賞歴は、NY ADC、D&AD、ONE SHOW、RED DOT、IF Design Award、DFA: Design for Asia Awards、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル/金賞など。
小山泰介(こやまたいすけ)
小山泰介(こやまたいすけ)
写真家。1978年生まれ。生物学や自然環境について学んだ経験を背景に、実験的なアプローチによって現代の写真表現を探究している。2017年まで4年間ロンドンとアムステルダムを拠点に活動し、現在東京在住。国内外での個展やグループ展多数。